2013年4月29日月曜日

日本人の愛国心について

 よく日本人は愛国心がないと言われる。もし戦争が起こったときに国のために戦うかという質問で戦うと答えた比率は回答国中最下位という結果があるように、国に対する忠誠が低いとも言わている。まあそのことで自称愛国者の方々はけしからんと憤ったり、国を愛するのは当然とか言って売国奴探しに忙しいわけだ。

 しかしながらこの「愛国心」という言葉、英語では2つの単語に分かれる。ナショナリズム(nationalism)とパトリオティズム(patriotism)である。この違いを意識して愛国心という言葉を使っている人は少ないように思える。ナショナリズムとしての愛国心は「国」、今の政治体制だったりその土地を支配する国家に対する忠誠というもの。パトリオティズムとしての愛国心は「郷土」、自分の故郷を懐かしんだり愛したりするもの。

 実のところ、大多数の日本人はパトリオティズムとしての愛国心はかなり持っているように思われる。自分の故郷を自慢するケンミンSHOWみたいな番組などいろいろやっており、芸能人も誇らしげに自分の故郷について話すことが多い。日本人の精神的な故郷、「クニ」というのは自分の出身都道府県であって日本全体についてではないのではないか。これはcountryとnationの違いとも言えると思う。地域を指すcountryと国家を指すnation。多くの日本人が帰属意識を持っているのは自分の出身都道府県、countryのほうではないだろうか。

 その代わりに日本人は国家に対する帰属意識が希薄であり、これが冒頭での国のために戦うかという質問で戦うと答える比率が最下位という結果につながっていると考えられる。これはもちろん島国ということが大きい。陸続きの場合、隣国が存在することで否応なし国家を意識する。日本はそれがない代わりに上京して東京と自分の出身道府県を比べることで故郷を意識しているのではないか。そして言うのだ、「ああなんだかんだで地元はよかったなあ」と。そうして故郷への帰属意識が生まれるのではないだろうか。

 またそもそも「お国のために戦う意識」が低いのは、国のために立ち上がるという意識が薄いということが人々の間にあるからだ。明治維新、1945年の敗戦はともにお上がガラっと変わったのであって、フランス革命であったり独立戦争のように「市民」が立ち上がって国家を変えたという経験が日本人にはない。ある意味日本人は未だ「村人」である。これ、「市民」意識というか国民による革命みたいに旧体制の転覆を成功させたことがあるか、ゲリラとか国民総動員で戦争に勝利したことあるかなどの経験のあるなしは大きいと思う。国家が成立した近代以降の日本人は結局人口の数%~1割の武士による明治維新とアメリカの押しつけというか敗戦による戦後民主主義しか経験してないため、国民の手で国を何とかするという意識が低いのはしょうがないとも思える。

 どうせ個人の運動が国家を変えることなんてないさ、という諦念が人々の間にはある。この一番の原因はKGBの工作もあったとはいえ、安保闘争が完全に敗北したことによる挫折であると思う。第二次世界大戦の処理が戦争を経験してる人々が死なないと完全に風化しないように、この個人の運動で国家を動かせなかったという安保闘争の挫折の経験の払拭には安保闘争直撃世代、団塊の世代が死ぬまではかかると思う。つまりもう20年だ。20年後には、おそらく30歳ぐらいまでの若者の世代の愛国心、国家運営観はこれまでの敗戦、安保闘争の敗北が受け継がれない、断絶したものを持つだろうと予測しておく。

 現代日本人の国家観というのは日本=大和民族、単一民族となっている。ただしこの日本=単一民族は、歴史的に言えば戦前は左派が使っていて戦後は右派が使うというねじれ構造になっている(ref: 小熊英二 「<民主>と<愛国>―戦後ナショナリズムと公共性」)。多民族国家では国家をまとめるためには人々が旗のもとに集まるという意識が強い。例えばアメリカだ。その一方で日本が単一民族国家だという思い込みによってそもそも旗のもとに集まるということが、薄いのではないか。日本人にとって国家というのは血の繋がりであり、それは憲法で日本の象徴とされている天皇家が血の繋がりであることが示している。

ただそうなると同じように島国で王室があるイギリスとの比較になってくる。じゃあ何が違うのかといえば、やはり海の向こうとの関わりあい、異文化体験の違いかなと思う。1800年代から植民地を持ち異文化が入ってきており、また王室も他国との血の交流がある状況と、鎖国を続けてきた状況では違うのかなと。ここらへんは難しい。

ただやっぱり血の繋がり、大和民族かそうでないかというは感じられて、ほら、南部陽一郎がノーベル物理学賞を受賞した時に、アメリカ人であるのにまるで日本人が受賞したかのように報道があったでしょう? それがその傍証。

これまでグダグダと書いてきたけど、結局のところtribe(部族)による血の繋がりに準拠するtribalism(部族主義)とその家族が住むcountryに対するpatriotismが日本の愛国心の正体。

なので、冒頭に書いた国防意識の調査においては、国(nation)を守りますか?はナショナリズム的な意味なので低い結果になっているが、あなたの故郷を、家族を守りますか?というパトリオティズム的な文脈で聞いた場合、50%を超えると思う。質問文によって結果が異なるはず。

まあしかし、一夜で世論が3割から7割に変わる国民性だからわからんよ(笑)。マッカーサーの「12歳の国」じゃないけど、精神面はガキで空気読めという国民性だから、世間の空気が戦わないやつは非国民になったらこの意識も一気に変わるよ。大学入る前からこの先数年で一気に右旋回するというのが現実となってきたのを見るとね。とこれまで書いてきた分析を無視にして終わります。