まあAmazonのページにある目次で5章のうち3章が他作品について言及っての知ってた上で地雷を踏みに行ったわけですけれども、まあちょっとは地雷じゃないと期待してましたが地雷だった。まあ一応Amazonへのリンクは貼っときますが。
Mの迷宮 『輪るピングドラム』論
で、まあ一言で言うならピンぼけしてる本だなと読み終わってから思った。だって一番最初と一番最後にこの作品のテーマは愛ですと提示してるのに主な話は「生存戦略」と「運命」ということが主な話。さらに言えば輪るピングドラムは宮沢賢治の銀河鉄道の夜がモチーフになってるってことはいろんなところで散々言われているのに、言及してるのが最後の章での6ページちょっと。他作品の評論部分で3章分使うより、本筋に関わる銀河鉄道の夜からのアプローチをもうちょっと増やすべきでしょ。ウテナやナウシカ、エヴァについていろんな作品を出して言及しているが、その部分は見ていない人への各作品のあらすじ、作品とピングドラムとの共通点を簡単にまとめるだけでいい。長い。
さらに言えば、ウテナやナウシカ、エヴァは全体主義3部作として章題の副題としてついてるようにこの評論本はピングフォースや眞悧、子供たちの生存戦略に焦点を置いてるわけだが、それとともにピングドラムの柱である愛についての言及が少ない。完全に消化不良。こないだ書いた自分のクソみたいな考えのほうが愛のあたりについてはマシと思うぐらい少ない。このあたりがピンぼけしてるなと感じた理由。恥ずかしがらずに愛について語れよ。
あと作中で出てくるいろんなメタファーについてほとんど読みといていない。そういう作中のメタファーを読み解いてピングドラムという作品を評する的なのを求める人はやめたほうがいい。
あ、ただ1点だけなるほどと思ったのが、なぜマリオにペンギンがつかなくて真砂子についてるかというところ。ペンギンは片思いの連鎖を表していて、いったんこの関係が露呈してしまうと氷山の上のペンギンのように誰かを突き落とさなければならないということ。ここだけはすごいうまいというか腑に落ちた。
むしろ他作品について言及しまくってこんな面白く無い評論にするぐらいだったら、途中の2章の4で自分のホラー愛をもっと開放して評論すべきだったでしょ。作者独自の視点が出てて、上手い下手とかおもしろいクソ以前に作者が楽しそうに書いてるように感じられるからこっちも楽しい。ホラーから読み解くピングドラムあたり的な題でこのボリュームだったらまあありだったかな。まああさっての方向からすぎてコミケで出せよって話かもしれないけど。このホラー部分とペンギンのくだりだけが面白かった。
それ以外は微妙で、些細な部分というかそこを突いていくか?というのが多かった。というよりも眞悧本人が僕は呪いのメタファーだからね、と言っているのに眞悧を一人の登場人物として扱ってその行動原理を読み解く部分がものすごい違和感があった。いやその呪いのメタファーの部分をもっと分解して行こうよ。
よく疑問に上がる、こどもブロイラー、桃果の日記のとは何か、「きっと何者にもなれない」とは?、プリンセス・オブ・ザ・クリスタルとは何者?、運命の至る場所は?等々に対する解答がないか不十分。もう一度書くけど、他作品に言及するぐらいならもっと読み解こう。まあそれが評論のスタイルです、と言うなら諦めますが。
あとピングフォースについて全体主義とか理想主義の堕落として言及してるけど、まあこれもピンぼけというかうーんという感じ。もちろん言及されてるがピングフォースは地下鉄サリン事件のオウムがモチーフ。で、幾原監督が同世代としての罪の意識があると。ここまではいい。なぜこっから革命だとか理想主義だとかのニッチなところに向かうのか。さらに言えばなぜ桃果について
桃果の能力が初めて描かれる第十五話には、「世界を救う者」というタイトルがつけられている。これは『ウテナ』を知っている視聴者に、桃果は「世界を革命する者」なんですよ、とヒントを出しているのだろう。と言ってしまうのか。違うでしょ。公式ガイドブックの藤津亮太の寄稿から引く。ちょっと長くなるけど。
剣山の演説は迫力があって素晴らしい。この素晴らしさは具体性が書いているからで、そこには記号のように「素晴らしさ」だけが叫ばれている。剣山の「素晴らしさ」はなぜ、呪いとして冠馬や晶馬に受け継がれることになったのか。(略) だから剣山は、陽毬がこどもブロイラーに送られてことを知らされても、こどもブロイラーのある世界を避難はしても、行動を起こさなかった。そして晶馬は行動を起こした。人が「黒」の世界へ落下しようとする時、それをこの世に留められるのは、具体性を欠いた素晴らしい言葉ではない。だれか一人のために投げかけられる言葉、伸ばされる手だけが、その人を何者にもなれない虚無から救うのだ。桃果が「世界を救う者」なのは、何者にもなれない虚無に落ちようとするところからただ一人のために言葉を、愛を投げかけられる者だからってことであって「世界を革命する者」という解釈はほぼ間違いと言ってもいい。ウテナやナウシカ、エヴァからの対比だろうけど、生存戦略や競争、全体主義ということにこだわりすぎ。愛の話なんだよ、なんでわかんないかなー。
まあだらだらと長くなったので終わりとしてまとめると1500円は高い。3/5が他作品の言及なので1500×2/5=600、さらにメタファーとかの消化不良ということで引いて切りの良い500円が妥当。いやまあ読む時間考えるとさらに微妙だと思うけど。途中のホラー部分やペンギンのくだりはおぉと思ったので、まあブックオフで買うか誰かから借りるかぐらいが妥当かな。自分で新品買うのは後悔する可能性が高いと思う。
この評論本と違って間違いなく3000円分、いやそれ以上の価値があると思うのはこの公式ガイドブック。上にも書いたように藤津亮太と辻村深月の寄稿が面白い。もちろんそれ以外にもスタッフのインタビュー、設定画、中の人のインタビュー、幾原監督と辻村深月の対談があってすごくいい。捨てページというのがこのガイドブックには存在しないと思うぐらい。眞悧先生の「しびれるだろう?」は100回以上撮り直してるということを知ることができるのはこのガイドブックだけ!
というわけなので評論本買うぐらいならこっちのガイドブック買いましょう。ガイドブックも買ってお金が余ってる人はこの評論本も買ってみるのもいいんじゃないんですかね、ということで。
ちなみに買いましたが、ブックオフあたりに売っぱらおうか考え中なので、ここんとこどうなの?とかいや実際にはもっとよかったじゃんとか言われても、その時点ではもう現物がない可能性があるのでどうにもならないです。
売っぱらうくらいならば、貸して頂きたいものです。
返信削除あ、売っ払いちゃいました。150円という1食の足しにもならなかったですが。
返信削除